7月24日
ウィーン9日目
Street and Studio展
良いなと思ったのはバスキアとソフィ・カルの作品。
【絵または写真×テキスト】という形式が好きなのだと思う。
バスキアで言うと「A Paw from the Middle Ages」(1982)という作品がグッと来たのだけれど画像を見つけることができなかったので、ネット上にあった彼の作品のうち【絵×テキスト】色の強いものをば。
彼は幼少期に頻繁に訪れたNYの美術館にある作品たちや入院中に両親が買ってきてくれた解剖学の辞書にインスパイアされているらしい。
たしかに、解剖学の図解は見入ってしまうというか飲み込まれるものがあると思う。
そして、もう一人の注目アーティストがSophie Calle。
彼女は私にとってジワジワと味が出てきたアーティストで、この展覧会でかなり気になる存在になった。
彼女を初めて知ったのは「現代アートの舞台裏 5カ国6都市をめぐる7日間」(サラ・ソーントン著)を何年か前に読んだ時で、当時はまったく記憶に残らなかった。
その後(たしか)テートモダンで彼女のHotelシリーズを見て「面白い!」と気になり始めた。
そして今回の展示会で私のソフィ・カル熱は花開きました。
展示してあったのは「The Bronx」。
これは(私の英語読解が正しければ)とある店を訪れたお客さんにソフィ・カルが突撃で「あなたの好きな場所に連れて行って」とお願いし、連れて行かれた場所で彼らを撮影した写真とその詳しい記述(テキスト)を組み合わせた作品。
¤ The Bronx, 1980/2002
彼女の作品集「M'AS-TU VUE」が自由に閲覧できたのだけれど、とっても面白かった。とはいえ私のフランス語能力では読み進めるのに精一杯で十分に味わえなかったのだけれども。
日本では訳されていないみたいだし、買って帰ろうかしら。
※ 結局翌日に買いました。(後日談)
本の中で紹介していた作品「Le Régime Chromatique (1997)」。
毎日ひとつの色に統一した
というわけで、彼女のことをネットで色々と調べてみた。以下箇条書き。
・1953年パリ生まれ
・パリのギャラリー・エマニュエル・ペロタンに属している。私が訪ねたときに彼女の展示がされていたら良かったのになあ。日本ではギャラリー小柳に所属。
・(florist_gallery Nさんのブログより)ソフィのインタビュー記事?
>写真とテクスト
「私は写真家ではありませんし、写真にそれほど関心があるわけでもありません。かといって、作家でもありません。常々、自分には書くことにも写真にもそれほどの能力がないので、私がやっているようなタイプの物語ーつまり確実な事実ーのためには2つのメディアに頼る必要があると 思っていました。それが理論的で、明白で、単純な2つの方法なのです。その後、写真を撮らずにテクストのみの方法をとることもできたでしょうが、写真があると物語の中に入っていけることに気付いたのです。」
(...)、無限の読み方が可能な記号としての写真の読み方を、テクストが規定しているのです。
写真はシャッターを切ることで現実にあった出来事にひとつの終局を与え、現在を一瞬のうちに「かつて・あった」「すでにおわった」過去に変質させます。そして、過去を優しいまなざしの対象に変えます。しかし、写真に物語を与えるのはテクストであり、テクストが写真に喋らせているのです。(...)
・大学を中退後、放浪の旅を7年続けた。(レバノン、ギリシア、メキシコ、カナダ、アメリカ)
→無目的な旅
→他人がどのような生活をしているかに興味が出てくる(分かる!)
→他人をつけて写真に記録し始める
この延長線上にあるのがThe Bronxなのだと思う。
・ソフィーにとっては他人を観察することは自分を探すことと同じ
・「Hotel」シリーズについて
ヴェネチアのホテルで働き、ベッドメイキングをしながら身に付けたテープレコーダーのマイクを通じて部屋の様子を記録。
作品はそれを文字におこしたテクストと部屋の写真。
これは宿泊客の泊まったホテルの部屋は宿泊者の性格がもっともよく現れるという考えのもと行われた実験的作品。
例えば、ある部屋の椅子にはランジェリーが掛けてある。洗面台には髭を剃ったあとがりソフィは女装癖の宿泊者かと思いつつも、その宿泊者がルームナンバーまで指定して泊まっていたことを不思議に思う。
実はその宿泊者は過去に恋人とその部屋に宿泊していたのだが、不慮の事故で女性を死なせてしまっていたのだ。それ以来、彼は同じ部屋を指定して同じようにランジェリーを椅子に掛けて泊まっているのだという。
→私もホテル(東京ミッドタウンのリッツ・カールトン。ラウンジに飾ってあるサム・フランシスの縦長で大きな連作がガチで良い)でベットメイキングのバイトを冬休みの数週間だけしたことがあるのだけれど、色々な人の人生が垣間覗けて興味深かった。例えばクリスマス翌日の部屋のゴミ箱を処理していた時、幼い少女が(おそらく母親と)書いた父親への手紙(失敗作)が捨ててあった。たしか「パパ、いつもお仕事がんばってくれてありがとう」といった文面だったと思う。
・失恋直後のソフィーの作品には、おそらく隠しマイクでとったであろう不幸の話がテキスト化されたものもある。失恋の痛手を他人の不幸な話を聞くことで癒していたのだと思われる。それに併せて自分の失恋について語りを刺繍されたテキストで展示してある。しかも日数が経って傷が癒えていくのに平行してこのテキストは薄くなっている。
・特にカメラの技術に秀でているわけではないことと、記憶癖があることの二点に共感できて親近感がアップ。
私がいつかやってみたいなと思っていたこと(料理の色を統一するとか。既に着色料は購入してある。)ややったら面白いだろうなと思っていたこと(ホテルの盗撮)を先取りしていて、むしろその向こう見ずな行動力に圧巻。
彼女の作品を見ていると自分を見ているようで深い共感が起こる。